うつ病の負担軽減に団結して行動を ―文献700件超をまとめたLancet提言
うつ病の世界的な疾病負担の軽減のために、一致団結して行動すべきだとする提言が、「Lancet」2022年3月5日号に発表された1。提言は、うつ病に関する700件超の関連文献を紐解き、うつ病の歴史と疫学、診断や治療に関するエビデンス、さらに今後の課題と推奨事項について概説したもの。京都大学医学研究科の古川壽亮氏ら、Lancet世界精神医学委員会の11カ国25人の学際的専門家チームがまとめた。
この提言によると、世界各国におけるうつ病の有病率は4.7%であり2、生涯罹患率は19.6%にも及ぶ3。うつ病の疾病負担は、重度になると障害調整生存年(DALY)で0.658にも達し、末期がんの0.569に匹敵する4。うつ病は学歴5-7や就業8、所得9,10に悪影響をもたらし、夫婦関係11-21や親子関係22-27にも影響する。さらに、「COVID-19パンデミックにより社会的孤立や孤独の悪化、世界経済の不安定化が進んでおり、所得格差の大きい集団ではうつ病リスクが高い28ことも示されている」としている。
しかし、この世界的な健康危機は依然軽視されているという。うつ病を抱える者はスティグマや無理解29-31に苦しんでいる。心臓病など他の疾患では、効果的な予防戦略により世界的な疾病負担が軽減しているにもかかわらず、うつ病では過去30年間で疾病負担が変化していない32。
近年、抗うつ薬や心理療法、自助プログラムなどの治療効果、病期ごとの治療戦略、生涯を通した予防プログラム、当事者や医療従事者のリテラシー向上に関する多数のエビデンスが蓄積されていると、提言はまとめている。それにもかかわらず、うつ病の治療ニーズは十分に満たされているとは言いがたい。高所得国であっても、うつ病に苦しむ住民の48%は医療サービスを受けておらず、6~7人に1人しか適切な薬物治療や心理療法を受けていない(適切な薬物治療の受療率は14%、適切な心理療法の受療率は17%)。低・中所得国では診断も治療も受けてない人々の割合は8~9割にも上る(医療サービスの受診率は27%、適切な薬物治療の受療率は6%、適切な心理療法の受療率は8%)33。既存のエビデンスを実践に移す方法としては、メンタルヘルスとプライマリケア、社会的支援などの各専門チームが統合して取り組むコラボレーティブケアの評価が高い34。また、個別化医療やデジタル技術の活用、ライフコースに応じた早期介入も重視されている。
こうした現状のレビューをもとに、提言では、主要なステークホルダーとなる一般住民、医療従事者、研究者・研究助成者、政策決定者の4者に対し、実用的な推奨事項を示している。(1)一般住民は、うつ病は誰でも罹患する可能性があると理解し、早期にプライマリケア医に助けを求め、エビデンスに基づく治療を受けることが重要である。(2)医療従事者は、特にメンタルヘルスを専門としない医師であっても、うつ病に注意を払うべきである。早期介入と患者に合わせた治療選択を心がけ、コラボレーティブケアに積極的に取り組むべきである。(3)研究者・研究助成者は、遺伝学や脳科学、患者の経験やストレスなどの相互作用を考慮した学際的アプローチを取るべきである。当事者およびその家族の研究への参画は重要である。(4)政策決定者は、うつ病による社会的・経済的不利益や生産性の低下を踏まえ、立ちふさがる障壁を理解した上で対策を講じるべきである。うつ病の予防や治療への投資は、持続可能な開発目標(SDGs)の複数項目の達成に貢献し、費用対効果に優れるものである。
提言をまとめた委員会は、「うつ病の世界的な疾病負担に対し、一致団結して行動するときが来た」と呼び掛けている。(編集協力HealthDay)
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