高精度脳機能マッピングによりうつ病の顕著性ネットワークの特徴が明らかに

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

高精度脳機能マッピングを用いた研究により、大うつ病性障害(以下、うつ病)患者の脳の顕著性ネットワークの面積は健常者よりも広く、そのトポロジー(大きさ、形、位置)は時間の経過や症状の変動に関係なくほぼ一定であることが、米ワイル・コーネル・メディスンのConor Listonらにより明らかにされた。この研究結果は、「Nature」2024年9月19日号に掲載された1

顕著性ネットワークは、デフォルトモードネットワーク(DMN)、中央実行ネットワーク(CEN)」と並ぶ脳の主要なネットワークの1つで、DMNとCENの切り替えを調整し、報酬処理や、体の内外からの要求や刺激に対する自律的なフィードバックと反応とを意識的に統合することに関与している。

今回の研究では、まず、6人のうつ病患者と37人の健常者のマルチエコー法によるfMRI画像データを高精度脳機能マッピングの手法を用いて解析し、機能的脳ネットワークのトポロジーを調べた。うつ病患者は、平均621.5分(範囲58〜1,792分)、健常者は平均327.49分(範囲43.36〜841.2分)のfMRIスキャンを受けていた。その結果、6人中4人のうつ病患者で、健常者に比べて顕著性ネットワークが2倍以上に拡大していることが明らかになった。うつ病患者の顕著性ネットワークが皮質面積に占める割合は、平均して健常者と比べて73%高く(5.49±0.76%対3.17±0.85%)、群レベルの効果は大きいことが示された(Cohen’s d=1.99)。この結果を、別の3つのうつ病患者群(それぞれ48、45、42人)で検証したところ、同様の結果が得られた(Cohen’s d=0.72、0.77、0.84)。さらに、過去の研究から、健常者812人2および120人3の単一エコーfMRIデータを用いて解析した結果、顕著性ネットワークはそれぞれ1.98%と1.27%であった。また、治療抵抗性うつ病患者299人を対象にした研究4データを用いた解析では3.43%であった。

次に、健常者37人とうつ病患者141人のfMRIデータを用いて機能的ネットワークの境界を分析した。その結果、うつ病患者での顕著性ネットワークは、主に、特定の高次機能システムに影響を与える3つのネットワーク(DMN、前頭頭頂ネットワーク、cingulo-opercularネットワーク)の中に侵入することで拡張することが確認された。

さらに、うつ病の症状には波があることから、うつ病患者の気分の変化に伴い顕著性ネットワークのトポロジーが変化するのかを検討した。その結果、顕著性ネットワークのトポロジーは経時的にほとんど一定で、顕著性ネットワークのサイズと症状の変動とは相関していなかった。反復経頭蓋磁気刺激療法を1週および6週実施した群のいずれでも、治療の前後でサイズに有意な変化は見られなかった。これらの結果から、顕著性ネットワークの拡張は、うつ病患者にほぼ変化なく見られる特徴であり、うつ病エピソードや症状の重症度、また症状がどれだけ続くかなどとは関連しないことが示唆された。

そこで、ABCD(思春期脳認知発達)研究5から得られた、10歳と12歳時点でうつ病の症状はなかったが、13歳または14歳で臨床的に有意なうつ病の症状を発症した小児と、うつ病症状のない小児57人ずつを対象に、高精度脳機能マッピングを行った。その結果、うつ病の小児では顕著性ネットワークが健常児よりも約36%多く皮質を占めていたが(3.81±1.58%対2.80±1.48%)、2年間の追跡期間でネットワークのサイズに有意な変化は見られなかった。成人の遅発性うつ病患者でも同様であった。このことから、顕著性ネットワークの拡張は、小児期から継続して認められる、うつ病発症を予測する脳の特徴であることが示唆された。

さらに、顕著性ネットワーク内の機能的結合の強さが、うつ病の症状(特に快感消失)の変動と関連しているかどうかを、2人のうつ病患者の長期間(8〜18カ月)にわたる詳細なデータを用いて検討した6,7。その結果、前帯状皮質と側坐核(快感処理に関連する部位)における顕著性ネットワークの結節点の機能的な結合が快感消失の変動と強く関連していることが判明したのみならず、将来の快感消失の出現や寛解をも予測できることが示された。

これらの結果を踏まえて著者らは、「高精度脳機能マッピングにより縦断的にデータを蓄積すれば、個々人に適した予防的治療の開発に資すると思われる」と述べている。(HealthDay News 2024年9月6日)

 

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参考文献

  1. Lynch CJ, et al. Nature 2024 Sep;633(8030):624-633.
  2. Van Essen DC, et al. The WU-Minn Human Connectome Project: an overview. Neuroimage 80, 62–79 (2013)
  3. Power JD, et al. Neuron 2011;72:665–678.
  4. Blumberger DM, et al. Lancet 2018;391:1683–1692.
  5. Casey BJ, et al. Dev. Cogn Neurosci 2018;32:43–54.
  6. Newbold DJ, et al. Curr Opin Behav Sci 2021;40:161–168.
  7. Naselaris T, et al. Curr Opin Behav Sci 2021;40:45–51.