自殺死亡者の半数は従来の警告サインなし、自殺未遂の有無に関する遺伝的背景に相違
提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン
自殺死亡者を対象としたコホート研究において、自殺未遂の既往がない群(suicide death without evidence of prior nonfatal suicidality;SD-N)は、既往のある群(suicide death with prior suicidality;SD-S)に比べ、諸精神疾患に関連する多遺伝子リスクスコア(PGS)が有意に低いことを示した研究結果が、「JAMA Network Open」に2025年10月20日掲載された1。
自殺死を最もよく予測する因子は自殺未遂の既往であるとされているが、未遂者のうちその後自殺で死亡するのは2.5〜7%に過ぎない2-4。また、自殺死亡者の約半数には、自殺念慮や自殺関連行動の記録も、精神疾患の診断もない5-7。これは、自殺未遂の既往や精神病理は重要ではあるものの、それだけでは自殺死亡を十分に予測できないことを示唆している。
米ユタ大学精神医学分野のHilary Coonらは、ユタ自殺死亡研究(Utah Suicide Mortality Research Study;UEMRS)を用いて、1998年12月から2022年10月までの間に自殺により死亡した2,769人を対象に、SD-S群と比較した場合の、SD-N群における諸精神疾患関連の遺伝リスクの程度を検討した。対象者は、SD-N群(1,337人)とSD-S群(1,432人)に分けられた。また、UK10KおよびGeneration Scotlandの遺伝データから、ユタ州の自殺死亡者と遺伝的祖先が類似した1万9,499人を抽出し、一般集団の対照群とした。対象者の遺伝リスクは、双極症、うつ病、抑うつ的感情、神経症傾向、不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、統合失調症、自閉症、注意欠如・多動症(ADHD)、飲酒、喫煙、アルツハイマー病の12項目につき、大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果に基づきPGSを算出した。SD-N、SD-S、対照群間でのPGSの比較には、共分散分析(ANOVA)を用い、性別、死亡時年齢、遺伝的祖先を表す20個の主成分を調整して解析した。
SD-N群では、SD-S群と比較して、男性の自殺死亡者の割合が有意に高く(82.65%〔1,105人〕対67.95%〔973人〕、P<0.001)、死亡時の平均年齢(標準偏差〔SD〕)も有意に高かった(47.5〔18.9〕歳対41.4〔15.6〕歳、P<0.001)。一方、対照群の男性の割合は44.09%(8,597人)で、これはSD-S群およびSD-N群より有意に低かった(P<0.001〕。遺伝的祖先は、3群ともヨーロッパ系が圧倒的に多く(SD-N 96.77%、SD-S 96.81%、対照97.38%)、有意差はなかった。SD-N群とSD-S群の間で社会経済的背景(職業ランキング、最高学歴、結婚経験)に関する有意差は認められなかった。
SD-N群はSD-S群に比べて、うつ病(調整平均差0.085、95%信頼区間0.018-0.152、P=0.01)、抑うつ的感情(同0.081、0.012-0.149、P=0.02)、不安(同0.091、0.021-0.161、P=0.01)、神経症傾向(同0.102、0.033-0.171、P=0.004)、アルツハイマー病(同0.090、0.021-0.1658、P=0.01)のPGSが有意に低かった(False Discovery Rate 〔FDR〕 P<0.05)。また、PTSD(同0.070、0.001-0.139、P=0.04)についても、SD-N群ではSD-S群より低く(FDR P<0.10)、双極症(同0.059、−0.004-0.121、P=0.06)も統合失調症(同0.061、−0.004-0.126、P=0.07)も低かった(FDR P=0.10)。一方、SD-N群と対照群の比較では、抑うつ的感情、神経症傾向、アルツハイマー病のPGSに有意差は見られなかった*a。自閉症、ADHD、飲酒のPGSは、SD-N群とSD-S群の間では有意差はなかったが、対照群と比べると両群とも同程度に有意に高かった(FDR P<0.05)*b。
Coonは、「自殺リスクがある人の中には、単にうつ病を見逃されただけでなく、そもそもうつ病ではなかった可能性が高い人も多く存在する。自殺に至るまでの要因を従来とは異なる視点で考える必要があり、自殺リスクがある人の捉え方をもっと広げるべきだろう」とユタ大学のニュースリリースの中で述べている8。(HealthDay News 2025年11月26日)
注釈
*a
抑うつ的感情:調整平均差0.037、95%信頼区間−0.019-0.093、P=0.20
神経症傾向:同−0.001、−0.057-0.055、P=0.97
アルツハイマー病:同−0.027、−0.083-0.029、P=0.34
*b
自閉症
SD-N対対照群:調整平均差0.080 (95%信頼区間0.023–0.136)、P=0.006
SD-S対対照群:同0.085(0.031–0.139)、P=0.002
ADHD
SD-N対対照群:同0.112(0.055–0.168)、P<0.001
SD-S対対照群:同0.076(0.022–0.129)、P=0.006
飲酒
SD-N対対照群:同0.067(0.011–0.123)、P=0.02
SD-S対対照群:同0.082(0.028–0.135)、P=0.003
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