精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)は現在の精神医学にも適応しているか

オンラインで開催された2022年アメリカ精神医学会(APA、2022年5月20-24日、カリフォルニア州サンフランシスコ)年次総会の本セッションにおいて、「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」の将来のあり方、およびDSMがこれからもいかにして精神医学の分野に適応し続けられるかということに焦点が当てられました。講演者は、精神医学の診断基準においてメンタルヘルスの社会的決定要因である人種、民族および国籍に対応することや、患者の生活機能の重要性、ならびに研究領域基準(Research Domain Criteria;RDoC)の枠組みをより幅広く設ける利点について解説しました。

メンタルヘルスの社会的決定要因

2022年APA年次総会のテーマは、「メンタルヘルスの社会的決定要因(Social Determinants of Mental Health;SDoMH)」でした。Roberto Lewis-Fernández教授(コロンビア大学、米国)は、人が生まれ、成長し、生活し、働き、年齢を重ねる状況がどのように日常生活を形成する力やシステムになるかということについて説明しました。これらは人の生物学的側面、主観的体験、リスク行動および対処メカニズムに影響を及ぼし、また、精神障害の発症や経過、および医療へのアクセスやその質にも影響を及ぼします。

不平等は過小評価されている精神疾患の原因のひとつと考えられる

不平等が精神疾患および精神的苦痛の原因として十分に認識されていないことがこれまでも強調されており、データによると、高所得国であっても、不平等な社会ほど精神疾患の有病率が高いことが示されています1(参考文献1のFigure 1参照)。

 

人種、民族および国籍

Dr Altha J. Stewart(テネシー大学、米国)は、精神医学的診断を行う際に、人種、民族および国籍への対応の重要性を強調しました。それを怠ると、患者はサービスや医療機関に不信感を抱き、医療との積極的関与が制限されることにもなりかねません。差別行為や人種差別は精神障害を悪化させ、転帰不良につながる可能性があります。また、誤診を招いたり、治療の選択肢や質が変わることもあります。

精神医学的診断を行う際には、人種、民族および国籍に対応することが重要である

精神疾患の診断・統計マニュアルの最新改訂版(DSM-5-TR)が2022年初頭に発行されました2。SDoMHの果たす役割の比重が増し、特に「Prevalence, Environmental Risk and Prognostic Factors, and Culture-Related Diagnostic Issues(有病率、環境リスク因子・予後因子および診断上の文化的問題)」の障害についてのサブセクションおよび「Culture and Psychiatric Diagnosis(文化と精神医学的診断)」の章に反映されています。人種、民族および国籍に対応するために、Cross-Cutting Review Committee on Cultural Issues(文化的問題についての横断的検討委員会)が設置されました。また、DSMのテキスト全体がEthnoracial Equity and Inclusion Work Group(民族人種の平等と多様性受入れのための作業部会)によって見直し改訂され、人種差別およびその他差別的な経験などの危険因子に適切に配慮することや、スティグマ化されていない言語を使用するような内容になっています。

 

研究領域基準

2008年、米国国立精神衛生研究所3は、現行の診断システムでは障害カテゴリーが特定の疾患ではなく不均一の症候群を表すことが多いため、トランスレーショナルリサーチの範囲が制限されてしまうという新たな懸念を浮き彫りにしました。これにより研究領域基準(Research Domain Criteria;RDoC)プロジェクトが立ち上げられ4、Dr Bruce Cuthbert(国立精神衛生研究所、米国)は、RDoCがどのように新たな精神疾患概念の確立に役立ち、ひいては今後のDSMの改訂において有用となり得るかについて述べました。

現行の診断システムでは、障害カテゴリーが特定の疾患ではなく不均一(ヘテロジニアス)な症候群を表すことが多いため、トランスレーショナルリサーチの範囲が制限されている

RDoCは生涯を通じた精神病理を理解するための新たな枠組みを提供するものですが、これは、正常機能に基づいているものの、ある範囲の疾患においては機能障害となり得るような領域(ドメイン)を導入しています。例えば、環境要因の影響や測定タイプ(遺伝学、認知機能、症状など)の統合があります。

Dr Cuthbertは、将来、DSMを編纂する際にこのアプローチを適用できる方向として、主観的体験、機能および生物学の統合(心身問題など)、ならびに疾患横断的な臨床的問題およびメカニズムへの取り組みなどを示しました。

 

生活機能の重要性

生活機能は、精神症状があることによって医療を求めたり、医療へ紹介されたりする患者において重要なファクターである

Dr Diana Clarke(APA)は、今後のDSMでの生活機能の重要性に言及し、生活機能は、精神症状があることによって医療を求めたり、医療へ紹介されたりする患者における重要なファクターであるとしました。DSM-5では、Global Assessment of Functioning(機能の全体的評定尺度)からWHO障害評価面接基準(WHODAS 2.0)5の使用へと移行し、症状と生活機能の評価が分離されました。これは生活機能が高いとみなされていても精神的苦痛をもつ患者の特定および治療に効果的です。

 

DSMの展望

DSMがすべての患者を網羅し、すべての患者に継続的に適合することが極めて重要である

講演者は、DSMがすべての患者を網羅し、すべての患者に継続的に適合するためには、将来的にDSMをRDoCと調和させ、SDoMH、人種、民族および国籍、患者の生活機能が適切に取り扱われることが極めて重要であるとの認識で一致しました。

 

Our correspondent’s highlights from the symposium are meant as a fair representation of the scientific content presented. The views and opinions expressed on this page do not necessarily reflect those of Lundbeck.

参考文献
  1. Pickett KE, Wilkinson RG. Inequality: an underacknowledged source of mental illness and distress. Br J Psychiatry 2010 Dec;197(6):426-8.
  2. https://psychiatry.org/psychiatrists/practice/dsm (2022年9月21日閲覧)
  3. Cuthbert BN. The RDoC framework: facilitating transition from ICD/DSM to dimensional approaches that integrate neuroscience and psychopathology. World Psychiatry 2014;13(1):28-35.
  4. Cuthbert BN. Research Domain Criteria (RDoC): Progress and Potential. Curr Dir Psychol Sci 2022;31(2):107-14.
  5. Üstün, T. B. Measuring Health and Disability: Manual for WHO Disability Assessment Schedule WHODAS 2.0. Geneva: World Health Organization, 2010.
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