MRIによる脳全体の解析には数千件以上の画像が必要

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

核磁気共鳴画像(MRI)を用いて脳全体と機能との関係性を解析する場合、信頼できる結論を得るためには数千件のデータが必要であるとの研究結果が、「Nature」2022年3月24日号に掲載された1。米ワシントン大学のScott Marekらによる報告で、従来の研究では対象数が大幅に不足していたことも明らかになったという。

ブレインワイド関連解析(brain-wide association studies;BWAS)は、脳皮質の厚さや安静時の活動性といった脳全体の構造面、機能面での個人差が、ヒトの性格や行動、思考、さらには神経疾患や精神疾患などにどのように関連するのかを分析するもの2。MRIで撮影した脳画像データの利用は、特定の構造や機能に絞ったマッピングでは成果を上げているものの、脳全体の特徴を分析するBWASでは従来その限りでなかったと、Marekらは述べている。

Marekらは「BWAS研究は精神疾患の疾病負担を軽減すると期待されてきた。しかし、MRIの撮影には1時間当たり約1,000ドルもの費用が掛かるため、サンプルサイズ(n)を増やしにくい。この制約がBWASの精度を下げている可能性がある。データを公開プラットフォームで共有する試みは始まっているが、昨年9月時点で共有されているopenneuro.orgの研究のサンプルサイズは中央値23件に過ぎない」とし、今回、BWAS研究で本来必要とされるサンプルサイズを検証した。

検証には、近年発表された大規模なBWAS研究であるAdolescent Brain Cognitive Development(ABCD)のデータ11,874件、Human Connectome Project(HCP)のデータ1,200件、UKバイオバンク(UKB)のデータ35,735件を使用。多変量解析としてサポートベクター回帰(SVR)と正準相関分析(CCA)を採用し、用いるサンプルサイズを25件から30,000件超まで変化させながら単変量と多変量の解析を行い、BWASの効果量と再現性を評価した。

その結果、BWAS研究で高い精度を得るためには数千件以上のサンプルサイズを要することが分かった。サンプルサイズを25件にして単変量解析をした場合、偶然で生じた関連性が誇張されてしまったり(参考文献1 Figure 3b参照)、データのばらつきが原因で解析ごとに正反対の結論が導かれたりした(参考文献1 Figure 3c参照)。また、認められた関連性は、他の独立したデータセットでは再現できなかった。効果量の誇張や再現性の問題は、サンプルサイズを大きくすると減少したが、この検証の最大値である約4,000件(探索と複製の各データセットが約2,000件)に設定した場合でも残存していた(参考文献1 Extended Data Figure 9参照)。

BWASは、単変量よりも多変量で解析した方が再現性のある関連性が強く認められ*a、この傾向は特にサンプルサイズが大きい場合に顕著であった。多変量解析で用いる変数としては、脳の機能(安静時機能的接続性)が脳の構造(脳皮質の厚さ)よりも精度が高く、認知機能のテスト(NIH toolbox)が精神病理の質問票(子どもの行動チェックリスト)よりも精度が高かった(参考文献1 Figure 4a-d参照)。

Marekらによると、今回提起した再現性の問題は、ゲノムワイド関連分析(GWAS)でも10年ほど前に同様に指摘されているという3。ゲノム科学の分野ではその対処として、研究の助成条件でデータ公開が義務化されるようになり、数百万件ものゲノムデータが集約可能になった。さらに研究デザインや手法の改善、データの規格化なども進み、ゲノム科学は大きく改善された。

Marekらは「BWASにとってGWASの復権は貴重な前例だ」と説明。「脳行動研究の分野でも、今後はデータ公開ポリシーによるデータ集約を強化する必要がある。幸い、BWASはGWASよりは効果量が大きく、サンプルサイズがより小さくても再現性を確保できるはずだ。また、脳と行動の関連性をより明確に示すためには、機能的MRIや行動評価に関するデータの収集に注力すべきことも明らかになった。これから脳と行動の表現型に関するデータの蓄積を進め、データに基づいた解析を実施すれば、認知機能やメンタルヘルスに関する理解はさらに深まるだろう」と今後の展望を語っている。(HealthDay News 2022年3月17日)

 

注釈

*a
例:maximum RSFC-crystallized intelligence association: support vector 回帰(SVR)による予測r(rpred)= 0.39、単変量 r = 0.16。

 

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参考文献

  1. Marek S, et al. Nature. 2022 March;603(7902):654-660.
  2. University of Minnesota. 2022 March 16. https://twin-cities.umn.edu/news-events/brain-studies-show-thousands-participants-are-needed-accurate-results (2022年5月31日閲覧)
  3. NOT-OD-07-088: policy for sharing of data obtained in NIH supported or conducted genome-wide association studies (GWAS). National Institutes of Health. 2007. https://grants.nih.gov/grants/guide/notice-files/NOT-OD-07-088.html (2022年5月31日閲覧)