大うつ病性障害における治療戦略の変遷

大うつ病性障害(MDD)患者に対する治療は、過去60年間で革新的変化を遂げました。今では、異なる作用機序を有する複数の種々の治療戦略や治療法があります。抗うつ薬の治療反応が不十分である場合に対処するための治療戦略も複数あり、それは治療の個別化の実現にも繋がる可能性があります。オンラインで開催された第7回アジア神経精神薬理学会大会(AsCNP2021、バーチャル形式、2021年10月22~23日)のLundbeck社主催の特別セッションで、MDDにおける治療戦略の変遷について議論がなされました。

Fagiolini教授(シエナ大学、イタリア)の説明によると、MDDの治療目標は過去数十年間で著しい変貌を遂げました。50年前の治療目標は、単純に効果を得ることであり、特定の尺度に従って症状が半減されることでしたが、より有効な治療法が確立されるにつれ、寛解が可能になりました。そこからさらに進んだ現在では、臨床医は依然として奏効と寛解を目指しますが、主要な目標は機能を完全に回復させることであり、基本的に症状がなく、発病前の状態に戻ることです1

現在、機能を完全に回復させることがMDDにおける治療の主要な目標になっている

 

MDDにおける治療の選択肢は治療目標に追いつけているか

Philip Gorwood教授(パリ大学、フランス)の説明によると、MDDに対する治療もまた、過去60年間で著しく進化しました。治療薬は1950年代に初めて登場した三環系抗うつ薬から、1980~1990年代に登場した選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)及びセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、現在はマルチモダルな作用機序を有する薬剤も登場しています。

しかし、現在の治療をもってしても、MDD患者は生活の質(QOL)の低さ及び機能障害に悩まされている現状があります。MDD患者1297例を対象にした観察研究では、SSRI/SNRIによる治療を受けた患者のうち、16週間の治療後に機能回復を達成したのはわずか34%だったことが示されています2

Philip Gorwood教授によると、MDD治療薬の選択において考慮すべき重要項目は、時間が経過するにつれて治療が難しくなることです3。エピソードの期間が長く、頻度が高いほど奏効の可能性が低くなります。さらに、治療薬を切り替えても、後期の治療ラインでは十分な効果が得られないことが考えられます。STAR*D研究では、第三選択薬の治療反応が十分であった患者は5例のうち1例未満であった3ことからも、最適な治療法をできるだけ早い段階で見つけることの重要性が強調されています。

MDDは時間の経過とともに治療が難しくなる

 

抗精神病薬による増強療法は治療の個別化の向上に繋がるか

抗精神病薬による増強療法は、抗うつ薬による治療の効果が十分に得られない患者に対する治療の選択肢の一つです。Fagiolini教授の説明によると、非定型抗精神病薬は、複数のドパミン受容体及びセロトニン受容体に結合し、ノルアドレナリン作動性経路、ヒスタミン作動性経路、コリン作動性経路と相互作用する複雑な薬理作用を有する薬剤です4。 現状、同じ受容体への作用を有する非定型抗精神病薬はなく、個々の患者の臨床プロファイルに薬剤の受容体作用プロファイルを合わせて薬剤を選択することで、治療の個別化に繋がる可能性があります4

抗うつ薬による初期治療の効果が十分に得られない場合に治療ガイドラインに従って検討されるその他の選択肢としては、第一選択薬のアプローチの最適化(十分量の投与及び漸増の検討)、他の抗うつ薬への切り替え、他の抗うつ薬との併用などがあります5-8。 

 

アンヘドニア(Anhedonia)の治療がMDDの他の症状改善への入口です

MDD患者のQOLを向上させ、機能を回復させるための重要な因子の一つに、アンヘドニア(Anhedonia)の治療があげられます9-11。アンヘドニアはMDDの主徴であり12,13、この症状がみられる場合、MDDの他の症状を改善するのは難しいと、Fagiolini教授は述べています。アンヘドニアの発現は、社会的ひきこもり、社会的障害、気分反応性、過去の出来事について思い悩むこと、気分の日内変動などの発現割合の高さと関連しています[n=564;F(1, 562):社会的ひきこもり=13.62、p<0.001;社会的障害=9.49、p<0.01;気分反応性=8.30、p<0.01;過去の出来事について思い悩むこと=4.14、p<0.05;気分の日内変動=4.05、p<0.05;多変量分散分析(MANOVA)]9

また、アンヘドニアは、抗うつ薬による治療を受けたMDD患者において寛解及び回復までにかかるとされる時間の負の予測因子でもあります。抗うつ薬による治療を受けたMDD患者217名を対象にした1年間の研究では、アンヘドニアのベースライン値が低い患者と高い患者 *aでは、寛解までにそれぞれ128日及び255日、回復までに316日及び624日と、開きがみられることが示されました(n=433;寛解までの期間:χ2=5.50、p=0.064;回復までの期間:χ2=7.32、p=0.026;χ²検定、Cox回帰(生存)分析)10

このように、アンヘドニアを改善することは、MDDの治療において考慮すべき重要な要因です。

 

本セッションはLundbeck社から資金援助を得ています。

 

注釈

*a
アンへドニアの平均MASQ(SD)スコア=94.36(11.66)、低群=平均より1SD低い、高群=平均より1SD高い。

Our correspondent’s highlights from the symposium are meant as a fair representation of the scientific content presented. The views and opinions expressed on this page do not necessarily reflect those of Lundbeck.

参考文献
  1. Saltiel PF, Silvershein DI. Neuropsychiatr Dis Treat 2015;11:875-88. 
  2. Novick D, et al. Patient Prefer Adherence 2017;11:1859-1868.
  3. Rush AJ, et al. Am J Psychiatry 2006;163:1905-17.
  4. Shayegan D & Stahl S. CNS Spectrums 2004: 9: 6-14.
  5. American Psychological Association. Practice Guideline for the Treatment of Patients with Major Depressive Disorder. 3rd ed. Arlington, VA: American Psychiatric Association. 2010.
  6. Kennedy SH, et al. Can J Psychiatry. 2016;61:540-560 [CANMAT Section 3].
  7. Parikh SV, et al. Can J Psychiatry. 2016;61:524-539 [CANMAT Section 2].
  8. National Collaborating Centre for Mental Health. Depression: Treatment and Management of Depression in Adults. Updated ed. 2010.
  9. Buckner JD, et al. Psychiatry Res 2008;159:25-30.
  10. Khazanov GK, et al. BehavRes Ther 2020;125:103507.
  11. Uher R, et al. Psychol Med 2012;42:967-80.
  12. Gorwood P. Dialogues Clin Neurosci 2008;10: 291-299.
  13. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. Fifth Edition. DSM-5TM. American Psychiatric Publishing, 2013.
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