症状の向こう側:ライフエンゲージメントを評価するうえで患者の声を聞く重要性

精神疾患の定義付けとしてはこれまで、診断が重視され、治療の成功とは「病気ではない状態」1をもたらすこととされていました。現在、この定義は個人を重視するものへと変化しつつあります。精神的苦痛の消失によって精神的健康が保証されるわけではなく、治療目標にはポジティブな精神的機能1が包含される必要があります。第34回欧州精神神経薬理学会議(ECNP2021、2021年10月2~5日、ポルトガル・リスボンおよびバーチャル開催)のシンポジウムでは、臨床医に向けて、機能的な患者報告アウトカムを用いて患者のライフエンゲージメントやレジリエンスを向上させるため、症状のコントロールの先にも目を向けるよう奨励しています。

適切な治療目標の設定

Melissa Paulita Mariano医師(イースト大学Ramon Magsaysay記念医療センター、ケソンシティ、フィリピン)の発表では、治療目標設定の重要性が強調されました。この発表によると、優先順位を明確化すること、患者の意欲を高めること、患者主体で回復過程を辿れるよう促すことが治療目標の設定には重要であり、治療目標への集中も促されます2。適切な目標設定は、臨床医と患者の間で協働的かつ能動的なプロセスとして検討され、調整されるべきです2,3

治療目標は患者と医療従事者(HCP)の間で異なる場合があるため、コミュニケーションの促進が不可欠である

治療目標は患者と医療従事者(HCP)の間で異なる場合があるため、コミュニケーションの促進が不可欠です。大うつ病性障害(MDD)に関する研究4によると、患者および医療従事者にとって緊急かつ重要な治療目標として最も多かったのは「気分を良くすること」でしたが(患者29% vs 医療従事者53%)、患者はこの他、「社会復帰(21%)」、「家庭生活の回復(20%)」、「職場への復帰(14%)」、および「副作用の軽減(16%)」を重要視したのに対し、医療従事者で「副作用の軽減」を重要な治療目標であるとみなしたのは1%でした。同様に、統合失調症の場合でも、患者で多くみられた治療目標の中には、症状のコントロールだけでなく、はっきりとした思考力および入院の減少も含まれていました5。医療従事者は、日常生活活動の再開、満足度向上、および職業能力の回復を過小評価していました6

 

機能回復におけるニーズは満たされていない

症状が回復していない状態は患者の機能性に大きく影響する

Roueen Rafeyan氏(ノースウェスタン大学ファインバーグ校医学部、シカゴ、米国)は、MDDと統合失調症の双方で機能回復におけるニーズが未だ満たされていない状況を考察しました。STAR*D試験7では、MDD患者の約1/3は複数の治療段階を経た後でも症状から回復しておらず、このことが患者の機能性に大きく影響していることが示されました8。抗精神病薬の大規模なメタアナリシスでは、社会機能の評価において、すべての抗精神病薬がプラセボより優れているわけではないことが明らかになりました9

 

患者のライフエンゲージメントの導入

そうした中で、症状コントロールを上回る有益性をもたらす治療へのニーズの存在が認識されています10。患者のライフエンゲージメント11とは、患者にとって重要なアウトカムである認知機能、活力、動機付けおよび報酬、ならびに喜びを感じられることに関連する健康のポジティブな側面を意味します。Rafeyan氏は、評価に基づくケアと患者の声を組み合わせることが、疾患の全体的な影響を理解するうえで重要な鍵になると強調しています。

評価に基づくケアでは、患者にとって意味のあるドメインに対応したPROが必要である

これを達成するためには、患者の声を十分に反映できる適切な評価ツールが必要です12。こうしたツールは認知的、社会的、身体的および感情的な側面を網羅していなければなりません。一例として、患者報告アウトカム(PRO)の利用を増やすことが挙げられます13。観察者が主体の評価尺度に基づく症状だけでなく、患者にとって意味のあるドメインに対応しているPROが、患者のライフエンゲージメントには必要です。

 

反応から回復、さらにはレジリエンスを超えて

Greg Mattingly氏(ワシントン大学医学部、セントルイス、米国)は治療目標の変遷を次のように説明しています。

  • 反応:多くの症状が残る
  • 寛解:症状の多くは軽減されるも、一部は依然として認められる
  • 回復:症状はわずかまたは認められない、患者の機能性および生活の質の改善
  • レジリエンス

レジリエンスは健康増進ならびにメンタルヘルス障害の予防および治療に欠かせない

レジリエンスは健康増進ならびにメンタルヘルス障害の予防および治療に欠かせません14。レジリエンスの強化には、十分な栄養、睡眠、身体活動などの基本的な事柄に加えて、マインドフルネスのトレーニングや薬物療法なども関与しています15。感情やストレスの制御、認知機能プロセスおよび社会行動に関係する神経系を標的とすることで、最終的には行動を司る神経生物学的変化に影響を及ぼす可能性があります15。総合的な観点では、患者のレジリエンス獲得を支援し、患者の生活に関与することが、治療における意思決定を共有する上できわめて重要です。

 

患者のライフエンゲージメント評価における患者報告アウトカムの利用

患者のライフエンゲージメントは、その後の治療成績の向上につながる測定可能なアウトカムである

Mattingly氏は、うつ病の中核症状以上の患者のライフエンゲージメントの要素を把握するために開発された、自己記入式評価尺度であるIDS-SR(Inventory of Depressive Symptomatology – self-report, IDS-SR10)から選抜した10項目について考察しました16。早期の研究において、患者のライフエンゲージメントは、その後の治療成績の向上につながる測定可能なアウトカムであることが示唆されています16。また、MDD以外の疾患でも、IDS-SR10を検討する価値があると考えられます。

発表者は皆、MDDおよび統合失調症に対する患者中心の医療では、総合的なアプローチが必要であることに合意しました。患者にとって意味のある治療アウトカムを反映する「患者のライフエンゲージメント」という新しい概念は測定可能でもあり、医療従事者が医療戦略を立てるうえで患者の視点を内包するのに役立つ可能性があります。

 

Educational financial support for this Satellite symposium was provided by Otsuka/Lundbeck.

Our correspondent’s highlights from the symposium are meant as a fair representation of the scientific content presented. The views and opinions expressed on this page do not necessarily reflect those of Lundbeck.

参考文献
  1. Manderscheid RW, et al. Evolving definitions of mental illness and wellness. Prev Chronic Dis 2010;7(1):A19.
  2. Stewart V, et al. Exploring goal planning in mental health service delivery: a systematic review protocol. BMJ Open 2021;11(5):e047240.
  3. Rose G, Smith L. Mental health recovery, goal setting and working alliance in an Australian community-managed organization. Health Psychol Open 2018;5(1):2055102918774674.
  4. Baune BT, Cronquist Christensen M. Differences in Perceptions of Major Depressive Disorder Symptoms and Treatment Priorities Between Patients and Health Care Providers Across the Acute, Post-Acute, and Remission Phases of Depression. Front Psychiatry 2019;10:335.
  5. Bridges JFP, et al. Quantifying the treatment goals of people recently diagnosed with schizophrenia using best-worst scaling. Patient Prefer Adherence 2018;12:63-70.
  6. Bridges JFP, et al. A test of concordance between patient and psychiatrist valuations of multiple treatment goals for schizophrenia. Health Expect 2013;16(2):164-76.
  7. Rush JA, et al. Acute and longer-term outcomes in depressed outpatients requiring one or several treatment steps: a STAR*D report. Am J Psychiatry 2006;163(11):1905-17.
  8. Israel JA. The Impact of Residual Symptoms in Major Depression. Pharmaceuticals (Basel) 2010;3(8):2426-40.
  9. Huhn M, et al. Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics for the acute treatment of adults with multi-episode schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis. Lancet 2019;394(10202):939-51.
  10. Juckel G, et al. Towards a framework for treatment effectiveness in schizophrenia. Neuropsychiatr Dis Treat 2014;10:1867-78.
  11. Bartrés-Faz D, et al. Meaning in life: resilience beyond reserve. Alzheimers Res Ther 2018;10(1):47.
  12. McCue M, et al. Adapting the Goal Attainment Approach for Major Depressive Disorder. Neurol Ther 2019;8(2):167-76.
  13. Mercieca-Bebber R, et al. The importance of patient-reported outcomes in clinical trials and strategies for future optimization. Patient Relat Outcome Meas 2018;9:353-67.
  14. Malhi GS, et al. Make News: Modelling adversity-predicated resilience Aust N Z J Psychiatry 2020;54(7):762-5.
  15. Malhi GS, et al. Modelling resilience in adolescence and adversity: a novel framework to inform research and practice. Transl Psychiatry 2019;9(1):316.
  16. Thase M, et al. Efficacy of Adjunctive Brexpiprazole in Adults With MDD: Improvement of Patient Engagement Based on Selected Items From the Inventory of Depressive Symptomatology Self-Report (IDS-SR) Scale. Psych Congress 2019; P301.
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