気分障害およびストレス障害への罹患しやすさは個別に予測可能である

精神科領域の個別化医療の目標として、精神疾患の発症リスクが最も高い人における発症の予防、および精神疾患を発症した患者に対するオーダーメイド治療の実施が挙げられます。アメリカ精神医学会2021年年次総会(APAAM2021、2021年5月1日~3日、バーチャル開催)において、Charles Nemeroff教授(テキサス大学オースティン校デル・メディカルスクール、米国)は、この目標はまだ実現されていないが実現可能であり、将来像は見えていると語りました。

Charles Nemeroff教授は、第1回のAnnual Nasrallah Family Neuroscience Awardを受賞した際の講演で、人工知能が、個人の遺伝子多型、エピジェネティクスおよびメタボロミクスに関する情報を組み合わせ、その組み合わせた情報を個人のネガティブな経験のエビデンスと統合することにより、不安症、うつ病および心的外傷後ストレス障害(PTSD)への罹患しやすさが予測可能になると述べました。

このアルゴリズムにより、疾患を発症する可能性と、発症した患者において各種治療アプローチ(薬物療法 vs. 認知行動療法、等)または各種薬剤[選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の使用等]が奏効する可能性の両方が、予測可能となります。

遺伝子と環境の相互作用は、疾患への罹患しやすさを決定する際の基準であり、エピジェネティクスが大きな役割を果たすと考えられる

Nemeroff教授は、機械学習により大量のデータを処理できることや、小児期の心的外傷、セロトニントランスポーター遺伝子(5-HTT)多型などの予測因子に対する現在の知見を以てすれば、そのような未来を見通すことができると述べました。

 

これまでに得られている知見の一例

複数の研究により、遺伝子型と環境の相互作用が疾患の発症リスクと転帰を決定付けることを示すエビデンスが得られています。

  • 小児期の虐待は、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)の協調作用によって内因性ストレス反応を変化させる。小児期の虐待の程度と強い相互作用を呈するCRH受容体1型遺伝子の多型は、成人期のうつ病と有意に関連している [ベックうつ病調査表スコア(BDI)平均値:CRHR1のSNPの一般的なアレルのホモ接合性(”CC”rs7209436, “GG”rs110402)保有者=22.33~22,49、ヘテロ接合保有者=16.31~16.39、レアアレル("TT" rs7209436, "AA" rs110402)保有者=10.22, P<0.05] 1
  • このような関連は、遺伝子と環境の相互作用に関する研究の原型とされる先行研究で示された結果と類似しており2、この先行研究では、小児期の虐待を経験後に大うつ病性障害(MDD)を発症する可能性は5-HTT遺伝子のプロモーター領域の機能的多型に依存する(sアレルを持つ者で発症可能性が高くなる)ことが示された [s/sホモ接合体(N=147) b=0.60、SE=0.26、 z=2.31、P=0.02; s/lヘテロ接合体(N=435) b=0.45、SE=0.16、 z=2.83、P=0.01; l/lホモ接合体(N=265) b=–0.01、SE=0.21、z=0.01、P=0.99]。
  • 小児期の虐待および成人期の心的外傷は、PTSDの症状の重症度に相加的に影響する [外傷後ストレス診断尺度スコア平均値±標準偏差:小児期の虐待なし=8.03±10.48 vs.2種類以上の虐待、20.93±14.32; 成人期の心的外傷がなし=3.58±6.27 vs.4種類以上の虐待=16.74±12.90、P<0.001]3

また、エピジェネティクスが極めて重要な役割を果たすことも明確になっています。我々のゲノムの約98%は、メチル化により遺伝子発現を調節する非コードDNAで構成されています4

遺伝子の脱メチル化は、遺伝子発現プロファイルと小児期の心的外傷の間の相互作用を調節しており、ストレス障害の発症リスクを決定付ける5

例えば、対立遺伝子に特異的な脱メチル化は、遺伝子発現プロファイルと小児期の心的外傷の間の相互作用を調節することが明らかになっています。FK506結合タンパク質5(FKBP5)遺伝子の脱メチル化は、ストレス依存的な遺伝子発現の増加、ストレスホルモン系の長期的な調節不全ならびに免疫細胞の機能およびストレス調節に関与する脳領域への全般的な影響と関連していました5。 

 

残された課題を示唆する知見の一例

Nemeroff教授は、市販の遺伝子多型検査が迅速かつ簡便に使用できると喧伝されているが、抗うつ薬の代謝に関しては、商用で利用できる遺伝子多型検査のベネフィットについて一貫したエビデンスが得られていないことを指摘しました。

非精神病性MDD患者304例を対象に最近実施された多施設共同無作為化二重盲検試験では、薬物動態および薬効に関連する遺伝子変異体の遺伝子パネル検査に基づく治療と通常の治療を比較した場合に、8週におけるMDDの転帰(SIGH-D-17)の変化有意な改善が認められませんでした6

米国医学会誌(JAMA)の論説においても、個々の患者における治療効果の予測を目的としてファーマコゲノミクス検査を行うことは、本来あるべきで実現可能なゴールであるものの、実際には、どのような方法が最適なものかは依然不明であると指摘しています7

Our correspondent’s highlights from the symposium are meant as a fair representation of the scientific content presented. The views and opinions expressed on this page do not necessarily reflect those of Lundbeck.

参考文献
  1. Bradley RG et al. Arch Gen Psychiatry 2008; 65: 190-200
  2. Caspi A et al. Science 2003;301(5631):386-9
  3. Binder RG et al. JAMA 2008;299:1291-305
  4. https://www.genome.gov/genetics-glossary/Non-Coding-DNA(2021年10月25日閲覧)
  5. Klengel T et al. Nature Neuroscience 2013; 16: 33–41
  6. Perlis RH et al. Depress Anxiety 2020 ; 37:834-41
  7. Zubenko GS et al. JAMA Psychiatry 2018 Aug 1;75(8):769-70
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