COVID-19罹患により脳の構造に変化か

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、軽症でも嗅覚に関連する脳領域の組織の萎縮と認知機能の低下をもたらす可能性があるとする研究結果を、英オックスフォード大学のGwenaelle Douaudらが、「Nature」に2022年3月7日発表した1

この研究は、英国の長期大規模バイオバンク研究であるUKバイオバンクの参加者のうち、2回の脳画像検査と認知機能検査を受けた785人(51〜81歳)を対象に、軽症で経過したCOVID-19罹患後の脳の変化を調べたもの。対象者のうち401人(感染群)は、約3年の間隔で実施された2回の脳画像検査の間に新型コロナウイルス検査で陽性の判定を受けており、うち351人はCOVID-19の診断から平均で141日後に2回目の検査を受けていた。残りの384人は、年齢や性別、人種、検査の間隔などをマッチさせた対照群で、COVID-19の罹患歴はなかった。

脳画像から、脳の構造や機能の特徴の指標となる画像由来の表現型(image-derived phenotype:IDP)が2,047個見つかった。このうちの297個は、嗅覚に関わる脳領域のものだった。多重比較に対するFalse Discovery Rate(FDR)を補正した後も有意だったIDPは68個で、このうち最も関連の強かった10個に着目すると、10個中8個は一次嗅皮質と機能的に関係する大脳領域に含まれるものであった。残りの2個は左眼窩前頭皮質と海馬傍回を包含するものであり、どちらのIDPについても、感染群では対照群に比べて灰白質の厚さと組織コントラストの大幅な低下が確認された〔外側眼窩前頭皮質:−0.76%、標準誤差(SE)0.2、Z値−3.8、Puncorr=0.000172、Pfwe(ファミリーワイズエラー率補正後のP値)=0.0449、海馬傍回:−0.92%、SE 0.25、Z値−3.7、Puncorr=0.000276、Pfwe=0.0685〕。これら10個のIDPに関する変化率の群間差は0.2〜2%程度と中程度だった。感染群において、対照群の中央値を超える経時的変化が認められた者の割合は、側頭葉梨状皮質に関わる領域で56%、嗅結節に関わる領域で62%、左海馬傍回に関わる領域で57%、左眼窩前頭皮質に関わる領域で60%だった。

また、感染群では対照群に比べて、脳脊髄液量の有意な増加(1.52%、SE 0.35、Z値4.3、Puncorr=0.000016、Pfwe=0.0277)や、全脳体積/頭蓋内容積比の有意な減少(−0.29%、SE 0.06、Z値−4.6、Puncorr=0.000004、Pfwe=0.0083)などが認められた。これらの有意なIDPに関する変化率の群間差についても、0.2〜2%程度と中程度だった。

さらに感染群と対照群の認知機能について、6種類の認知機能検査の結果を比較したところ、感染群では2回の脳画像検査の間に、トレイルメイキングテストのA(数字を結ぶ)とB(アルファベットや数字を結ぶ)を終えるまでの時間が有意に増加していた(A:7.8%、Puncorr=0.0002、Pfwe=0.005、B:12.2%、Puncorr=0.00007、Pfwe=0.002)。感染群でのこのような認知機能の低下と上位10個のIDPとの関連をpost hoc解析したところ、小脳のcurs II領域との有意な関連が認められた(r=−0.19、Pfwe=0.020)。

著者らは、「主に大脳辺縁系の画像から得られた今回の結果は、嗅覚経路を介して脳の変性が進むことや神経に炎症性の変化が起きていること、あるいは嗅覚の喪失により感覚入力が失われることなどを、生体内において反映するものだと思われる。この有害な影響を部分的にでも元の状態に戻せるのか、あるいはこれらの影響が長期間続くのかについては、今後、さらに追跡して調べる必要がある」と結論付けている。(HealthDay News 2022年3月7日)

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参考文献

  1. Douaud G, et al. Nature. Published online March 7, 2022. doi : 10.1038/s41586-022-04569-516;376:e068993