転ばぬ先の杖? 寛解した初回エピソード精神障害の維持療法について分かっていること、分かっていないこと

人口の最大3%が罹患している統合失調症及び関連障害を含む精神障害は、患者の生活に広く悪影響を及ぼす可能性があり、世界的に疾病負荷が最も高い疾患のひとつでもあります。ガイドラインでは急性期の精神病症状の治療や安定化に重点を置いていますが、抗精神病薬の長期使用による負担の大きい副作用の管理といった、長期的な再発予防に関する臨床判断にはまだ課題が残っています。このシンポジウムでは、寛解した初回エピソード精神障害の維持療法に関する現在の知識格差や実現可能な戦略について、専門医の先生方がそれぞれの見解を発表しました。

寛解期の患者で維持療法を早期中止すると予後は不良で、その傾向は、10年後のフォローアップ時にも認められました

使い続けなければ効果が無くなる:初回エピソード精神障害後の維持療法はどれくらい続けるべきでしょうか

臨床ガイドラインでは初回エピソード精神障害後最初の1年間の維持療法が推奨されています1,2が、University of Hong Kong精神科のEric Chen教授は、本シンポジウムの冒頭で、特に治療効果が得られ寛解を達成した患者に対するこの発症後1年以降の維持療法に関し、十分な合意形成がなされていないことを指摘しました。

治療効果が高い患者は、当初の効果を失うことなく、維持療法の継続によって最大の利益が得られる患者と考えられます

Chen教授は10年間の前向き研究から得られたデータ3 を提示し、この論題に対する解明の手掛かりを示しました。この研究では、初回エピソード精神病の治療が奏効し1年間寛解が続いた患者がプラセボ治療にランダム割付けされた場合、維持療法を継続した患者と比較して、2年のフォローアップでの再発リスクが非常に高いことが示されました(Kaplan-Meier推定法による再発率、維持療法群41% [95%CI:29-53%]、プラセボ投与群79%[68-90%]、P<0.001)。この不良なアウトカムは10年後のフォローアップ時にも認められました(臨床アウトカム不良率における投与中止群[39%]vs維持療法群[21%]のリスク比1.84、95%CI 1.15–2.96、 p=0.012)4 10年再発率の合計に群間差が認められないにもかかわらず、プラセボに割付けられた患者でより早期に再発したことは、再発の時期が長期的な臨床的及び機能的アウトカムに重要な役割を果たしていることを示唆しています。

Chen教授によると、投薬中止の早すぎる決定が1回でもなされると長期アウトカムの悪化が決定付けられる可能性があり、これによって患者は最初に得られた効果を失い、「治療効果が高い患者は維持療法の継続によって最大の利益を得られる可能性がある」という一見逆説的にも見える現象を生じさせることが、上述のデータにより示されました。

限りなくゼロに近づける:治療アドヒアランスの促進に役立つguided dose reduction と意思決定の共有

National Taiwan University Hospital精神科のChen-Chung Liu教授は続くセッションで、維持療法の継続vs.中止という二分する見解を提起し、各患者の最小有効量の決定を目的とした第3のアプローチを提示しました。guided dose reduction algorithm(ガイド下減量アルゴリズム)を用いて投与量を一度に減量し(現行の投与量の25%以下)、6ヵ月以上の安定期を認めた場合にはさらに用量を25%減らす、というものです5

Liu教授は、このアプローチでは患者と医師の意思決定の共有が必須であると強調しました。なぜなら、このアプローチの拠り所は、治療薬を減らしたいという患者自身の希望、そして患者と医師の両者がさらなる減量を必要と感じているか、又は再発の前兆が現れた場合に以前の用量に戻すべきかどうかについて継続的に評価することだからです。

Liu教授によると、現在実施中の研究で得られた予備的データから、患者ごとに個別に投与量の減量を行うguided dose reductionが維持療法のリスクとベネフィットのバランスを最適化する治療オプションとして実施可能であり、良好な治療効果が得られ投与量の減量を希望する患者の治療満足度と治療アドヒアランスの向上に役立つ可能性があることが示唆されました。

 

各自の裁量に任せる:初回エピソードが寛解した患者の治療中止に関する医師の考え方

調査によると、医師の半数には、寛解した患者の治療の継続又は中止が患者のQOL向上に関連するか否かの確信がありませんでした

香港のInstitute of Mental HealthのSwapna Verma教授は、シンポジウムの結語として、患者の状態が良好なときに治療の中止が期待される場合に、臨床ガイドラインでは1~2年を経過した後の明確な推奨事項が示されていない事実があり6,7医師はこのジレンマによく直面していることを強調しました。

Verma教授は、アジア4ヵ国の精神科医に対して実施した調査8で得られたデータを提示し、多様性に富む医師の考え方を示しました。この調査では、例えば、シンガポールでは医師の半数近く(48.4%)が、患者の20~39%において初回エピソード後に精神病症状がなければ治療を中止してもよいのではないかと考えており、さらに、医師の約半数で寛解した患者の治療の継続又は中止が患者のQOL向上に関連するか否かの確信がないことが示されました。

Verma教授は、寛解した患者に対して維持療法を中止するか否かを判断する際に医師が考慮する要因は、臨床的要因、社会的要因及び患者が置かれた状況の要因等と複雑であり、将来的に治療の中止又は投与量の減量に関するより多くのエビデンスと明確な推奨が必要であることを強調して、セッションを締め括りました。

Our correspondent’s highlights from the symposium are meant as a fair representation of the scientific content presented. The views and opinions expressed on this page do not necessarily reflect those of Lundbeck.

参考文献

1. American Psychiatric Association. Practice guideline for the treatment of patients with schizophrenia. 2nd ed. American Psychiatric Association, 2004

2. Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists Clinical Practice Guidelines Team for the Treatment of Schizophrenia and Related Disorders. Aust N Z J Psychiatry. 2005; 39(1-2): 1-30.

3. Chen et al. BMJ 2010; 341: c4024

4. Hui CLM et al. Lancet Psychiatry 2018; 5(5); 432-442

5. Liu C-C. Schizophr Bull 2018; 44(Suppl 1): S414

6. Buchanan RW et al, Schizophr Bulletin 2010; 36, 71-93

7. Crockford D. Can J Psych 2017; 62: 624-34

8. Hui et al. Early Interv Psychiatry 2019; 13; 1329-1337.

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