認知症患者の抑うつ症状は心理的介入により一定の改善が得られる可能性

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

認知症および軽度認知障害(MCI)患者に対する認知行動療法(cognitive behavioural therapy;CBT)をベースにした心理的介入(サイコセラピー)は、抑うつ症状の緩和に一定の効果があり、また、これらの患者の生活の質(QOL)をも改善させる可能性があるとするレビュー論文が、「Cochrane Library」に2022年4月25日掲載された1

英ロンドン大学のVasiliki Orgetaらは、認知症やMCI患者の抑うつ症状や不安を軽減し、QOLの改善を得るために心理的介入を行った場合の効果を評価する目的で、通常の治療(TAU;一般的なケアや、注意制御訓練など)を受けた群を対照群とした研究を集め、システマティックレビューとメタアナリシスを行った。メタアナリシスには、固定効果モデルを用いた。

データベースとしてALOIS(Cochrane Dementia and Cognitive Improvement Groupが維持管理)、MEDLINE、Embaseなどを用い、さらに3つの臨床試験登録のデータを用いた。認知症またはMCI患者の抑うつや不安に対する心理的介入の効果を、TAUを受けた群または心理的介入を受けない群を対照として検討したランダム化比較試験(RCT)の中から諸基準を満たす29件の研究を選び出した。試験参加者の総計は2,599人であった。対象とした心理的介入は、1)CBT〔CBT(4件)、行動活性化(BA、8件)、問題解決療法(PST、3件)の3種〕、2)支援療法およびカウンセリング療法(11件)、3)マインドフルネスをベースとした認知療法(3件)、4)対人療法(1件)の4分類とした。

29件のうち、治療後の抑うつ症状をPHQ-9などによって評価していた13件(参加者893人)を対象にCBTをベースにした治療(CBT、BA、PST)の効果をメタ解析した結果、抑うつ症状の改善には、TAUやCBT以外の治療(active control)よりもCBTの方がやや効果的である可能性が示された〔標準化平均差(SMD)−0.23、95%信頼区間(CI)−0.37〜−0.10、エビデンスレベルは中等度*a〕。また、治療後における抑うつ寛解率を評価した2件(参加者146人)では、CBTは抑うつ寛解率の増加にも寄与していることも示唆された〔リスク比(RR)1.84、95%CI 1.18〜2.88、エビデンスレベルは低い〕。しかし、治療後の不安症状を評価した3件(参加者143人)では、CBTの効果は明らかでなかった(SMD −0.03、95%CI −0.36〜0.30、エビデンスレベルは大変低い)。一方、治療後のQOLを評価した7件(参加者459人)では、CBTは、TAUやCBT以外の治療に比べ、QOLを改善していた(同0.31、0.13〜0.50、エビデンスレベルは中等度)。治療後の日常生活動作(ADL)を評価した7件(参加者680人)では、ADLを改善させる可能性が示された(同−0.25、−0.40〜−0.09、エビデンスレベルは中等度)。

これに対して、治療後の抑うつ症状を評価した9件の支援療法およびカウンセリング療法の報告(参加者994人)では、抑うつ症状の改善効果は、ほとんどもしくは全く認められなかった(SMD −0.05、95%CI −0.18〜0.07、エビデンスレベルは低い)。また、これらの不安症状に対する効果は、1件の小規模なパイロット試験で評価されているのみであり、不確定であった。また、マインドフルネスをベースとした認知療法や対人療法の効果も、データが少なく、エビデンスレベルが大変低かったため、結論を出すことはできなかった。

著者らは、「今回の研究により、認知症およびMCI患者に対しては、薬を処方することよりも心理的治療を実施することの方が良いことを支持する、十分に質の高いエビデンスを得ることができた。今後、患者の治療法にサイコセラピーを選択する臨床医が増えて欲しい。さらに、今回の研究に関連するさらに質の高い研究を実施するため、研究資金も必要だ」と述べている。(HealthDay News 2022年5月4日)

 

注釈

*a
GRADE Working Groupエビデンスレベル
・高い(High certainty):真の効果が効果推定値に近いことに大きな確信がある
・中等度(Moderate certainty):効果推定値に対し中等度の確信がある。つまり、真の効果は効果推定値に近いと考えられるが、大きく異なる可能性も否めない。
・低い(Low certainty):効果推定値に対する確信には限界がある。真の効果は効果推定値とは大きく異なるかもしれない。
・大変低い(Very low certainty):効果推定値に対し、ほとんど確信が持てない。真の効果は、効果推定値とは大きく異なるものと考えられる。

 

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参考文献

  1. Orgeta V, et al. Cochrane Library. Published online April 25, 2022. doi: 10.1002/14651858