脳の変化の個人差を定量化するツールを初開発

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

脳の発達の個人差を定量化するためのツールを初めて開発したという研究報告が、「Nature」2022年4月21日号に掲載された1。「BrainChart2」と名付けられた本ツールは、英ケンブリッジ大学のRichard Bethlehemらが脳MRI研究100件超のデータを用いて開発したもの。オープンアクセスのウェブサイト上で双方向的に操作して閲覧できる「脳の成長曲線」である。

BrainChartの構築には、既存の研究100件超の対象者101,457人で撮影された、脳の構造的MRI画像123,894件を使用した。脳の灰白質体積、白質体積、脳室容積といった各組織の表現型について、非線形成長曲線を構築するためのフレームワークであるGAMLSS(位置、尺度、形状の一般化加算モデル)を用いて、男女別に生涯にわたる成長曲線を描出した。なお、対象者は受精後16週の胎児から100歳の成人まで全年齢を範囲としており、精神疾患や神経疾患など多様な背景を持つ者も含まれた。

BrainChartは、脳の主要組織における年齢に応じた構造の変化を可視化するツールである。BrainChartを見ると、脳が人生の初期に急拡大し、加齢に伴いゆっくりと委縮する様子を確認できる。例えば、灰白質体積は妊娠中期以降に急増し、5.9歳(95%ブートストラップ信頼区間5.8~6.1)でピークに達した後、ほぼ直線的に減少する。白質体積も類似した曲線を描くが、ピークは28.7歳(同28.1~29.2)である。一方、脳室容積は2歳まで増えた後、30歳まで大きな変化はないが、その後緩やかな直線的増加を示し、60歳代に入ると指数関数的な増加が始まる。総大脳体積は胎齢16週から3歳までの間に最大体積比10%から80%まで成長した後、12.5歳(同12.1~12.9)でピークに達する。成長速度が最も速いのは、灰白質体積では5.08カ月齢、白質体積では2.4歳、総大脳体積では7カ月齢の時である(参考文献1Figure3参照)。

BrainChartでは、各MRI画像の各表現型がどの程度典型的であるかを示すための標準化された指標として、パーセンタイルスコアを採用している。表現型が非典型的であるほど、パーセンタイルスコアは外れ値となる。パーセンタイルスコアと精神疾患や神経疾患との関連性を検討するため、今回使用したデータセットの一部から、大うつ病性障害(MDD)、不安障害(ANX)、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、統合失調症(SCZ)、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)の患者(各500人以上)を抽出して対照群と比較した。その結果、こうした患者群では対照群との間にパーセンタイルスコアの違いが認められ、その効果量は中程度(Cohen’s dで0.2~0.8)もしくは大きかった(Cohen’s dで0.8超)。効果量が最も大きいのはADで、女性患者の灰白質体積で特に顕著だった(Cohen’s dで0.88、参考文献1Figure4a参照)。さらに、全ての表現型のパーセンタイルスコアについて多変量解析した結果、対照群との差が大きい順に、AD、MCI、SCZ、ASD、ADHDで有意差が認められた(P<0.001、百分位マハラノビス距離、参考文献1Figure4b、c参照)。患者群と対照群の差異は、生涯を通じて診断名を問わず大きかったが、特に認知症リスクの上昇する成人後期、精神疾患の罹患率の上昇する思春期に大きくなった(参考文献1Supplementary Information 10.3参照)。

BrainChartの限界としては、MRI画像の多くを北米や欧州の研究から入手しており、データベースの多様性が欠如していることが挙げられる。そのため、実臨床で広範に用いる前に、世界の他地域からもデータを集めて調整する必要があるという。

Bethlehemらは「現時点では、患者のMRI画像を臨床診断に使える段階には至っていない。しかし今回の研究で、同年代の平均的な状態と比べて、脳がどの程度異なるのかを知るための基準となるチャートを、世界規模で構築可能だと証明できた」と説明。将来的には、小児の身長や体重を成長曲線と比較して判定するのと同様に、脳MRI画像をBrainChartと比較し、各個人の特徴を判定できるようになる可能性があるとしている。(HealthDay News 2022年4月6日)

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参考文献

  1. Bethlehem RAI, et al. Nature. 2022 April;604(7906): 525-533.
  2. http://www.brainchart.io/ (2022年6月20日閲覧)