統合失調症患者ではパーソナルスペースが広くなり、許容度は低くなる

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

統合失調症患者では対照群と比べて、パーソナルスペース(PS)が広く、パーソナルスペースへの侵入を許容する能力(以下、許容度)は低くなっている、という研究結果が、「Schizophrenia Bulletin」に2022年6月5日掲載された1

統合失調症患者では、PSに変化が生じ2-9、それが統合失調症の陰性症状と関連することが、繰り返し指摘されている3,5,6,10。しかし、こうしたことがなぜ生じるのか、その神経生物学的基盤について、詳しいことは分かっていない。

そこで、米マサチューセッツ総合病院のSarah L. Zapetisらは、主に統合失調症患者から成る精神障害患者33人(統合失調症群)と精神障害のない36人(対照群)を対象に、まずStop Distance Procedure(SDP)を用いてPSを測定した。これは、3mの距離から検者が被験者と目を合わせながらゆっくりと近づいてくる間に、被検者に「ストップ」を2回言わせ、それぞれの距離から、PSの範囲と許容度を算出するものである*a。社会的引きこもりはTime Alone Questionnaire(TAQ)により、社会的アンヘドニア(快感消失)はChapman Social Anhedonia Scale-Revised(SAS-R)により、それぞれ評価した。加えて、統合失調症群では、Positive and Negative Syndrome Scale(PANSS)を用いて統合失調症の陽性・陰性症状および社会的引きこもり(受動的な社会的引きこもりの項目を含む)について評価した。また、MRI画像により、PSへ他人が侵入した場合に反応すると予想される脳の部位の機能的接続性、すなわち、PSネットワーク内の接続性(中前頭回など)、加えてデフォルトモード(DM;上前頭回など)ネットワーク内の接続性、さらにはPSとDMネットワークの接続性の3つについて調べた。2群間の差の検定にはt検定を用いた。PS、社会的引きこもりとアンヘドニア、および脳ネットワークの機能的接続性との関連はピアソンの相関分析を用いた。統合失調症群・対照群それぞれの検討も、全対象者をまとめた分析も行った。

その結果、統合失調症群では対照群と比べてPSは有意に広く*b、許容度は有意に低かった*c。また、社会的引きこもりや社会的アンヘドニアのレベルについても、統合失調症群の方が有意に高かった*d。全対象者を対象にした解析では、PSの広さと許容度の双方が社会的引きこもり*e、および社会的アンヘドニアと有意な関連を示した*f

PSとDMネットワークの機能的接続性は、全対象者を含めた解析でも群ごとの解析でも、PSの広さとは有意な関連性は認められなかったが、許容度とは有意な関連性を認めた*g。さらに、統合失調症群では、PSとDMネットワークの機能的接続性と受動的な社会的引きこもりとの関連性も認めた*h

このような統合失調症群で確認されたPSとDMネットワークの機能的接続性、許容度、および社会的引きこもりとの間の相関に基づき、統合失調症患者では「PSとDMネットワークの機能的接続性」と「受動的な社会的引きこもり」との関連を許容度が媒介している、という仮説を、媒介分析により検討したところ、「PSとDMネットワークの機能的接続性」が強ければ、許容度は有意に低くなること*i、さらには社会的引きこもりが有意に強くなることが示された*j。加えて、「PSとDMネットワークの機能的接続性」と「受動的な社会的引きこもり」との直接効果は有意ではなかったことから*k、許容度は「PSとDMネットワークの機能的接続性」と「受動的な社会的引きこもり」とを、完全媒介していると考えられた。

著者らは、「対照者に比べ、統合失調症患者では、PSは押しなべて範囲が広く、許容度は低かった。統合失調症患者においては、PSの広さではなく、許容度が、陰性症状のみならず、社会的引きこもりと社会的アンヘドニアとにも関係していると考えられる」と結論付けている。(HealthDay News 2022年7月20日)

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注釈

*a
・許容度の測定方法:
最初の「ストップ」は、被験者が見知らぬ人との間に確保したい距離に検者が達したときに(distance 1;D1)、2回目の「ストップ」は、検者が被験者のPSを越えたとき(D2)に言うものとし、D1とD2の比〔100−((D2* 100)/D1)〕をPSへの侵入に対する反応レベル、すなわちPSの許容度とした。

*b
t(52.4)=−3.093、P=0.003

*c
〔t(67)=2.363、P=0.021〕

*d
引きこもり:t(67)=−4.495、P<0.001、アンヘドニア:t(44.0)=−4.513、P<0.001

*e
広さ:r=0.408、P<0.001、許容度:r=−0.326、P=0.006

*f
r=0.423、P<0.001、許容度:r=−0.380、P=0.001

*g
全対象:r=−0.372、P=0.002、対照群:r=−0.382、P=0.02、統合失調症群:r=−0.360、P=0.04

*h
(r=0.362、P=0.039)

*i
B=−15.112、P=0.040

*j
B=−0.50、P=0.014

*k
B=0.970、P=0.218

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参考文献

  1. Lei D, et al. Schizophrenia Bulletin 2022 June 21;48(4):881-892.
  2. Deus V, et al. Psychiatr Danub. 2006;18(3-4):150-158.
  3. Holt DJ, et al. Neuroimage Clin. 2015;9:233-243.
  4. de la Asuncion J, et al. J Psychiatry Res. 2015;69:135-141.
  5. Nechamkin Y, et al. Int J Soc Psychiatry. 2003;49(3):166-174.
  6. Park S-H, et al. Psychiatry Res. 2009;169(3):197-202.
  7. Srivastava P, et al. Compr Psychiatry. 1990;31(2):119-124.
  8. Duke MP, et al. J Consult Clin Psychol. 1973;41(2):230-234.
  9. Horowitz MJ, et al. Arch Gen Psychiatry. 1964;11:651-656.
  10. Schoretsanitis G, et al. Eur Psychiatry. 2016;31:1-7.