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Progress in Mind
個別化されたオーダーメイド治療であるプレシジョン・メディシン(Precision Medicine;精密医療)は、個々の患者の治療を最適化するためでなく、精神医学で大いに必要とされている新規治療法を開発するための臨床試験を効率的に利用するためにも不可欠であると、Arango教授(University Hospital Gregorio Marañón[スペイン、マドリード])はEPA 2020(第28回欧州精神医学会、2020年7月4日~7日、バーチャル形式)の講演(State of the Art Lecture)で述べました。
多くの疾患領域の中でも特にがんの領域では、医薬品開発は遺伝子変異と病態生理の理解により進展してきましたが、精神医学では臨床観察を通して達成される傾向がありました。
とはいえ、出発点としての臨床観察の価値を過小評価すべきではありません。結局のところ、Research Domain Criteria(RDoC)プロジェクト2(精神疾患の新たな分類・診断法の構築を目的して2009年に開始された米国NIMH主導プロジェクト)は、異なる診断間の境界をまたぐ症状 ― 例えば大うつ病と統合失調症とに共通する認知機能障害など ― は共通の細胞的、分子的、そして究極には遺伝的異常を反映する神経回路の障害を共有しているという考えから生まれているのです1。
対象集団組み入れの質の向上
低グルタチオンレベルは皮質容積の減少を予測します
精神医学のいくつかの領域では、病因メカニズムの理解を利用して、臨床試験の対象集団の組み入れの質を向上させることがあります。たとえば、酸化ストレスが統合失調症の発症に関与している可能性に関しては、グルタチオンレベルが低いことが、早期発症型の精神疾患にかかりやすい人における皮質容積減少を予測すると考えられます3。
試験対象集団の組み入れの質を向上させることはよい考えではありますが、治療に対する個々の反応は動的であるため、ベースライン時だけでなく治療経過中の反応に関連する因子を評価する必要があります4。
第2に、アダプティブデザインによる治療の切り替えを可能にする試験が必要です。そうすることで、奏効しなかった患者を上乗せ治療または代替治療に再ランダム化することができます。
想起バイアスにさらされないリアルタイムデータ
受動的モニタリングによるリアルタイムデータの取得はデータ統合が問題となります
そして第3に、転帰を予測し、評価するには、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)のようにバイアスや意図しない不正確さに左右されやすいエピソード想起手法ではなく、例えば現在可能となっているウェアラブルデバイスによる高密度のリアルタイムの行動モニタリングのような、より正確な評価が必要です。これにより、複数ソースからの大量データの統合という問題が提起されますが、これには機械学習が有用です。
プレシジョン・メディシンの探求者は遺伝学を大いに信頼していますが、その可能性を過大評価してはいけないとArango教授は警告しました。
統合失調症の生涯リスクが約1%であるとき5、遺伝的リスクスコアが20倍に上昇するということは、個人がその疾患を発症しない確率が80%であることを意味します。
実用的な進歩は完全な理解に先行します
他にも、統合失調症における例で言えば、22q11.2欠失症候群が、共通の病因を有する比較的均質な患者グループを形成することから注目されていますが、統合失調症患者のうち、この欠失があるのは0.3%です6。
しかし、悲観的になりすぎる必要はありません。乳がんで増殖因子を過剰発現している女性において、HER2分子標的療法の有用性が十分に認識されるまでに20年を要しました。根本的なメカニズムが十分に理解される前に、実用的な進歩が達成されることは少なくありません。
Our correspondent’s highlights from the symposium are meant as a fair representation of the scientific content presented. The views and opinions expressed on this page do not necessarily reflect those of Lundbeck.