大うつ病性障害の「奏効」や「寛解」から「完全な機能回復」へ: 患者の治療参加はMissing link(失われた環)なのか?

うつ病は、感情、身体及び認知のドメインで不均一な症状群を伴う、ありふれているが深刻な疾患です。大うつ病に対して承認された様々な治療薬が利用可能であるにもかかわらず、患者の一定数が、寛解基準を満たしているのに自らを寛解期にあると思っていないか、さもなければ機能回復が得られていません。このシンポジウム(於 AsCNP 2019 第6回アジア神経精神薬理学会;2019年10月11日~13日;福岡)では、3名の専門医が、治療の選択及び治療目標に対する現在のアプローチの限界についての見解を示し、うつ病治療を最適化するための今後の方向性を提唱しました。

「平均的な患者」の先を見る:個々の患者プロファイルを標的とした神経科学的アプローチ

米国University of California San DiegoStephen Stahl教授は、シンポジウムのオープニングで、うつ病治療の臨床ガイドラインは、概して、様々な抗うつ剤は等しく効果的であると結論付けたメタ解析1に基づいていることを説明しました。しかしながら、メタ解析は「平均的な患者」に通用する事実を示しているものの、多くの患者の症状プロファイルが「平均的な患者」に当てはまらないことを指摘しました。教授は、うつ病の症状は不均一であり、無関心や疲労感から集中力の問題や精神運動機能障害まで広範囲に渡ることを強調しながら、異なった標的に対する様々な薬物が、幅広い症状領域に渡り異なった臨床尺度に効果がある可能性があることを指摘しました。そのため、患者個人にとって適切な薬剤治療をできる限り早期に選択するためには、患者の症状プロファイルに対応する特異的な作用機序を考慮すべきであると、Stahl教授は述べました。 

Stahl教授は、持続的な認知機能障害がうつ病の一般な症状であり、患者を消耗させる2ことを強調し、モノアミン作動性の薬剤が主に気分症状を調節する脳回路を標的とする一方、複数の神経伝達物質系(コリン作動性、ドーパミン作動性、ノルエピネフリン作動性、ヒスタミン作動性、GABA作動性、及びグルタミン酸作動性の経路)は認知機能に関与していること3,4を説明しました。このため、患者個人にとって最適な治療をできる限り早期に選択するためには、患者の症状プロファイルに関係する薬剤の特異的な機序を考慮すべきであると、Stahl教授は述べました。

 

治療アウトカムの改善のために患者と医師の間にある認識のギャップを小さくする

次の演者、ドイツUniversity of MünsterのBernhard Baune教授は、寛解の基準(うつ病の評価尺度のスコア数で定義)を満たす患者の半数以上が自らを寛解期にあると感じておらず2、症状が回復した患者の多くには機能障害が持続する3という明らかな矛盾を指摘しました。このため、患者自身が日常生活機能、作業能力、及びQOLなどさらに広範な要素が重要と感じており2、気分症状を標的とすることは回復に必要であるもののそれだけでは不十分である、とBaune教授は述べました。

Baune教授は1件の調査研究4で得られた最近の公表データを提示して自身の指摘を裏付けました。その公表データでは、寛解期の患者は医師の認識と比較して、気分、認知、及び身体症状のすべてのドメインでより悪いレベルの症状を報告し、より強い機能障害を感じていることが報告されたことが示されました。医師はまた、急性期での患者の気分症状を軽減することを重視する傾向がありますが、一方、患者はすべての段階において気分と機能の双方の改善を必要と感じています。

Baune教授は、治療アウトカムを改善させるには、この患者と医師の間の、症状や治療目標に関する認識のギャップを埋める必要性を指摘しました。そして、意思決定の共有の重要性と共に、確実に改善を持続させて完全な機能回復を取り戻すための重要な時間である寛解期の重要性を強調しました。

 

治療経過を評価する新たなアプローチが機能回復の促進に役立つ 

カナダUniversity of TorontoのRoger McIntyre教授は、患者報告アウトカム(PRO)は治療の目的及び経過を評価する際に有用であり、うつ病治療においてアンメットニーズとして依然残る領域(QOL労働機能などの機能の改善など)に踏み込める可能性があることを指摘し、治療目標を決める際に患者の関与が重要であることを詳細に説明しました。

McIntyre教授は、治療の経過及び成功度を評価する独特な患者中心の手法として目標達成スケール(GAS)5を強調しました。GASを用いると、医師と患者の対話に基づいて治療目標の合意が得られ、治療目標に気分症状の改善だけでなく日常活動や幸福感(well-being)に関連する機能面での目標も含めることができ、治療の焦点を症状の寛解から機能回復に広げることができます6。 

McIntyre教授はシンポジウムのまとめとして、患者が日常生活機能を取り戻し、QOLを高め、有意義で生産的な生活に戻れるようになるために、うつ病のあらゆる要素を治療目標とし、その中には労働機能にとって特に重要とされている認知症状を含めることを検討すべきであると訴えました。

 

 

Our correspondent’s highlights from the symposium are meant as a fair representation of the scientific content presented. The views and opinions expressed on this page do not necessarily reflect those of Lundbeck.

このサテライトシンポジウムはH. Lundbeck A/Sよる教育資金の援助を受けています。

参考文献

1. Cipriani A et al. Lancet 2018; 391: 1357–1366.

2. Zimmerman M, et al. J Clin Psychiatry. 2012;73(6):790–95

3. Papakostas GI. Am J Manag Care 2009; 15: S316-S321

4. Baune BT, Christensen MC. Front Psychiatry 2019; 10: 335.

5. Kiresuk TJ, Sherman RE. Community Ment Health J 1968; 4: 443–453.

6. McCue M et al. Neurol Ther 2019 ; 8(2) : 167–176.

7. Chokka P et al. CNS Spectr 2019; 24: 338–347. 28–31 May, 2019.

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