不知火病院におけるリワークを見据えたうつ病治療【後編】~不知火病院のうつ病治療とリワークプログラムの今後の展望~

前編ではリワークプログラムの現状と課題、不知火病院のストレスケア病棟におけるうつ病治療を紹介していただきました。後編では不知火病院のうつ病治療の方針と実践についてより詳しく、医療法人社団新光会 理事長 徳永 雄一郎先生と、同法人 不知火病院 看護部長 原 恭美氏にお話を伺いました。

安心できる環境の提供で早期回復を目指す

徳永:不知火病院(以下、当院)のストレスケア病棟では、うつ病患者さんの入院治療を行っており、患者さんの表出した攻撃性をきっかけとして回復に導いていることは前編でお話ししました。これまでの臨床経験から、うつ病患者さんには、頼りたいけど頼れないという二面性を伴った感情を背景に、自己の感情表出を抑制する傾向があるものの、入院治療の中で医療スタッフとの間に安心できる関係性が構築されると、そのタイミングで攻撃的感情を表出させやすくなると考えています。

当院では外来と入院の両方でそれぞれうつ病治療とリワークプログラムを実施していますが、外来治療に比べて入院治療の方が比較的早期にうつ症状の回復と復職ができている印象です1。その要因として、一つには入院による規則正しい生活が寄与していると思います。加えて、外来治療では自宅で不眠や不安などの症状があった場合、基本的には患者自身で対処せざるを得ないのに対し、入院治療では医療スタッフが常時、患者さんの変化に対応可能なため、安心できる治療環境を提供できていることが挙げられます。

原 :当院の入院によるリワークプログラムは、退院直前に4週間かけて復職後の業務を想定した治療を行うものです。うつ病入院治療の入院期間については、長期に及ぶほど患者さんの社会との乖離が大きくなり、社会復帰に支障をきたす可能性があると考えており、原則3ヵ月以内での退院を目指しています。

 

有明海の豊かな自然環境を生かした病院設計で安心感を最大限に

徳永:入院中のうつ病患者さんが安心感を得られる環境を実現するうえで、当院のストレスケア病棟の自然豊かな環境を生かした立地・構造も、非常に重要な役割を果たしていると考えています。有明海に面した病棟からは潮の満ち引きを眺めることができ、敷地内の植栽からは四季折々の変化が感じられます。また建物内への日光の入り方や風の通り方も綿密に計算されています。こうした豊かな自然を取り入れ、気持ちが内側に向きがちなうつ病患者さんの五感を徹底的に刺激し、自然を身近に感じながら入院生活を送れる環境を提供しています。このような環境に患者さんが身を置くことがうつ病治療にポジティブに作用するのは、社会生活を送る中で作り上げた自己像から解放され、生物としての自己を見つめ直すことにつながるからではないかと考えています。うつ病患者さんは家庭的自己や社会的自己といった自己像の下、感情を抑えてしまう傾向があると感じています。自然豊かな環境の中、生物としての自己像を取り戻すことが、素直な感情表出につながるのではないかと思います。


原 :施設内にも、患者さんが安心感を得て、自然と感情表出ができるようにするための様々な工夫がなされています。例えば、患者さんとスタッフが1対1でアーユルヴェーダを行う部屋があり、そこでは自己を見つめ直して内面について考える時間を過ごすことが可能です。他にもアロマのマッサージを受ける部屋もあります。うつ病患者さんはリラックスした状態となることで気持ちが弛緩して本音を出しやすい傾向にあると感じます。施術するスタッフは医療従事者ではありませんが、病棟でのカンファレンスに医療スタッフ同様にチーム医療の一員として参加し、感じ取った患者さんの変化について共有しています。

徳永:4人部屋の構造も特徴的であり、厚生労働省の基準よりも大幅にベッド間隔にゆとりを持たせることで1人1人のスペースを十分に確保しています。そしてそれらの間に視界を完全にさえぎらない高さの本棚や壁を配置することで、患者さんは他人の存在を感じつつも個室のような感覚も得られ、他人との適度な距離感を保つことができるようにしました。こうした構造により、うつ病患者さんの対人ストレスを軽減しつつも孤独感を与えない、安心できる環境を提供できています。

原 :他にも、食堂のテーブルをひょうたん型にデザインしたり、病室につながる廊下はストレートではなく街並みをイメージしたカーブとしたりと、無機質な雰囲気を避けて暖かみを演出する工夫がされています。これらの創意工夫により、当院のストレスケア病棟は福岡県建築文化大賞や、精神科病院では初めての日本病院建築賞を受賞しました。

 

ストレスケア病棟のアロママッサージの施術部屋

 

感情表出を受け止める医療スタッフという「人」の環境提供

徳永:うつ病患者さんの表出した攻撃性は患者さんのご家族に向かうこともあります。そこでご家族には、診療時や家族会の場で、うつ病治療の一般的な知識を説明するとともに、当院の治療方針を共有しています。しかし、うつ病患者さんの感情抑圧が家族との関係性に起因する場合や、外来診療ではご家族が治療方針を理解し対応いただけるだけの十分な時間が確保できない場合があり、多くの場合はご家族が攻撃性の表出を受け止めることは非常に困難です。

この重要な役割を担えるのは医師を含めた医療スタッフということになるかと思います。患者さんがあるタイミングで表出させた攻撃性は、患者さんの母親の代理としての役割を求めるような形で、女性看護師に向かうことが多く見受けられます。また、患者さんが長い間抑圧してきた感情の爆発的な表出として、激しい怒りや悲しみを伴っていることが多いため、受け止める看護師の精神的負担は非常に大きいものだと思います。実際、看護師のなかにはうつ病患者さんの攻撃性を受け止めることが強いストレスとなり、体調を悪くしてしまったり勤務に支障をきたしてしまったりする者もいました。しかしながら、うつ病患者さんが攻撃性の表出を経て感情の処理を習得し、内省と人格の成長を遂げて回復していくケースを目の当たりにすることで、医療スタッフは、攻撃性を受け止めることの治療上の意義を理解し、積極的に実践できるようになっていきます。また、そうした具体的な回復過程について医療スタッフ間での情報共有をすることで、お互いを支え合い、スタッフ個人の負担軽減につながっていると思います。

原 :患者さんの攻撃性を閉鎖的な暗い病棟の中で受け止めていたら、より辛く感じていただろうと思います。患者さんの安心感を目的に設計された病棟の快適な空間や環境の中で、患者さんの感情を受け止めることで、支える医療スタッフにとってもストレス軽減に役立っています。

 

看護部長 原 恭美氏

 

復職に成功したうつ病患者さんの「治癒像」の重要性と
リワークプログラムに対する医療側が果たすべき責務

徳永:リワークプログラムをさらに効果的に行うために、当院ではリワークプログラムを経て復職したうつ病患者さんの集会を定期的に開催しており、それには現在リワークプログラムを受けて復職を目指している患者さんも参加しています。治療中の患者さんにとって既に回復して復職に成功した患者さんと接することは、治癒像がイメージしやすくなるため、治療の意欲が向上し、前向きにリワークプログラムに取り組むことにつながるメリットと感じます。

一方、企業によるリワークのハードルが上がりつつある昨今において、今後リワークプログラムがさらに普及していくには、事業場の求めに応じられるようなプログラムを実施することが必要不可欠だと感じます。それには、患者さんの業務遂行能力の測定にブルドン抹消検査を取り入れるなど、医療側と事業場側の間で復職判定の不一致が生じないような仕組みが必要です。さらにはリワークプログラムの有用性について、復職後に就労を継続できているかなどの長期の追跡調査を行い、検証していくことが求められると思います。

取材/撮影:ルンドベック・ジャパン Progress in Mind Japan RC
取材日:2020年11月26日
取材場所:不知火病院(福岡県大牟田市)
 

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参考文献

  1. 徳永雄一郎. 最新精神医学. 2018; 23(3): 177-183