COVID-19感染拡大下におけるうつ病のリワークプログラムのあり方~COVID-19感染拡大を精神科医の視点で考える Vol.2

五十嵐良雄先生(一般社団法人 日本うつ病リワーク協会 理事長、医療法人雄仁会 メディカルケア虎ノ門/メディカルケア大手町 理事長)

COVID-19感染拡大下の現在、うつ病などによる休職者を復職させる復職支援(リワークプログラム)と患者さんの復職にどのような影響が出ているかについて、また、COVID-19感染症や将来への不安が就労者のメンタルヘルスにどう影響しているのかについて、一般社団法人 日本うつ病リワーク協会 理事長(医療法人社団雄仁会 理事長)の五十嵐良雄先生に伺いました。

―COVID-19感染拡大によるリワークプログラムへの影響についてお聞かせください。

リワークプログラムを実施している施設で構成される一般社団法人 日本うつ病リワーク協会が、感染拡大第一波さなかの4月3~10日に会員101施設に第1回アンケートを行った結果、同期間中にプログラムを通常どおり行った施設は74.3%、プログラムの一部の実施にとどまった施設は19.8%、全面休止した施設は5%と、全体の1/4が影響を受けたことがわかりました。
影響には地域差があり、たとえば私が理事長を務めている都心のメディカルケア虎ノ門とメディカルケア大手町では診療を継続しましたが、参加者が感染を恐れて中断したり、企業が社員に外出自粛を要請したことに伴ってプログラムに参加できず、一時は半減しました。感染を恐れてプログラム参加を中断した方については症状が悪化することを心配しました。東京都が5月25日に緊急事態宣言を解除してからは徐々に参加者も増え、9月8日時点までにほぼ元の状態に戻っています。
第1波収束後の6月1~12日に行った第2回アンケートでも、プログラムの一部の実施にとどまっている施設が22.6%、全面休止したままの施設は8.6%と、依然として1/4以上が影響から脱していません。各施設では、消毒の徹底や、グループワークでの参加人数の調節などの、いわゆる3密を防ぐ工夫が行われているようです。しかしながら、「集団に馴染むことを目的とするグループワークで人との接触を極力避ける」というのにはそもそも矛盾があります。どうしたらよいか明確な答はいまだ見つかっていない中、それぞれの施設が必死に試行錯誤を続けています。

―グループワークにおける密集回避の工夫についてお聞かせください。

プログラムへのニーズは高く、会員施設からは「感染拡大下でも休職期限までに回復・安定が認められなければ、解雇など参加者の不利益は極めて大きい。援助をおろそかにするわけにはいかない」、「継続は難しいが、たとえ参加者が1人になったとしても、何ができるかを検討していきたい」などの切実な声が寄せられています。クリニックから「感染対策を講じたうえで頑張って継続したい」との声が届いている一方、病院内の施設は院内感染発生による中断を危惧しています。また、グループワークなどでの感染対策として、少人数グループに分割する、食事中の私語を慎む、室内での体操プログラムを見直す、ロッカーやハンガー、文房具などを共有しないなど、施設に応じた方法を採っています。
こうした状況を受け、今後、第3~第4波の襲来が懸念されるなか、協会理事長として、医療施設の運営について指示できるのは監督官庁である厚労省のみであること、会員施設の規模や地域性、運営方法は多様であり、統一的な提案を出しにくいことを説明したうえで、「今後のプログラム運営については、政府や専門家委員会、都道府県や各自治体の首長からの発表内容を勘案しつつ、貴施設の地域性を考慮しながら判断していただきたい」と伝えています。

―テレワークが推進されているなか、リワークプログラムについても、たとえば一部をリモート診療で行うなどのお考えはありますか。リモート診療で行えること、行えないことについてお聞かせください。

たしかに、自社オフィスを閉鎖して在宅テレワークに切り替えた企業もあります。会員施設からも「テレワークが推進されるなか、家庭での課題もプログラムに盛り込むべきであった」、「診療報酬として認められていないことで遠隔のリワークプログラムに移行できない」などの意見が寄せられています。
テレワーク対応や遠隔診療については、まず、『コミュニケーションとは何か』を考える必要があります。通信産業やIT業界など、在宅テレワークでも十分に意思疎通できる業態もあるでしょう。しかし、コミュニケーションとは、言語による情報に加えて、相手の顔を見、声を聞き、表情や声の抑揚などからもメッセージを受け取る作業です。在宅勤務が推し進められている現在、このように、対面でのコミュニケーションの重要性を改めて認識した人も少なくないはずです。
コミュニケーションがうまく取れないことで休職を余儀なくされている患者は、適切な復職支援なしでは休職期間後に復職したとしても同じ問題に突き当たり、再休職してしまうことになります。また、在宅テレワークからそのまま復職することは、実はコミュニケーションがうまくとれないまま職場復帰してしまうことにつながりかねません。そもそもリモートで十分に意思疎通できるのであれば、相対することが原則であるこのプログラムに参加する必要はないのです。
精神科診療では、患者と対面して表情や動作を観察し、こちらの問いかけへの反応をみることが重要です。たとえば、現在、診療室では患者もマスクを着けていることで、私は患者から読み取れる情報量が各段に減ったと感じており、まずは、十分に離れたうえでマスクを外してもらっています。モニター画面に浮かぶ顔とマイクを通した声からでは微妙なニュアンスがやりとりできないことで、私は対面同様の診療が遠隔診療では到底できないと考えています。

―社員に在宅勤務を要請している企業も多く、また、テレワークでは勤務実態の把握が難しいことで、復職希望者・企業側ともに戸惑っていることが想像されます。

リワークに携わる医師は適切なタイミングで復職可能の判断を下す必要がありますが、我々も報告したように、コロナ禍以前から医師が考える復職可能な回復レベルと企業が求める復職可能の回復レベルにギャップがあります1
復職希望者をまずは在宅勤務の形で復職させることについては、雇用側の目が届きにくいことから、本当に復職できるレベルに回復しているか、形だけの復職(presenteeism)になっていないかの見極めが難しいのが実情です。
しかしながら、出社人数を制限している企業が、復職希望者をまずは在宅勤務とすることは仕方ないことであり、誰も経験したことのない今回の事態のなかで、これが本当によいことなのかについては、現段階では産業医を含めて誰も明確な答は出せません。
私が診ている就労中の患者および休職中の患者については、通勤の必要がなくなり、自由な時間が増えたことで、また、苦手な上司と顔を合わせずに済んだことで、症状が好転した例もあります。ただ、今後もこれがずっと続くわけではなく、いずれ出社しなければならない時期が来た場合に再発するかもしれません。また、「出勤」という行為は社会参加への手掛かりになっているのであり、出勤せずに済むことで日常のリズムがどんどん後ろにずれてしまう生活時間の乱れから症状が増悪した例もあります。この点で毎日の生活リズムを保つことは重要です。

―復職希望者にとっては展望しにくい状況になっています。

在宅勤務の推進によって成果主義がいっそう進むと言われており、また、経済が順調に回復するとは考えにくく、あるいは復職希望者にとってはしばらく不利な状況が続くことも危惧されます。
すなわち、COVID-19によって今後の日本の企業社会との働き方が大きく変わる可能性があり、企業側の都合などによって、復職ではなく転職を余儀なくされる人も出てくるでしょう。転職が当たり前になった今日、生涯を通して同じ職場で働き続けるよりも、疾患を克服しながら健康に働き続けることが最終的な目標になってきています。リワークプログラムは“転職”支援プログラムの方向性も模索する必要があるかもしれません。

―目下の状況が患者さんの心身に及ぼす影響についてお聞かせください。COVID-19の感染が再び拡大すれば、受診をためらっている患者さんの症状の悪化が懸念されます。

人類はこれまでも災害や戦争などによって精神的なストレスを受けてきていますが、今回の事態も大きな災害と言えます。COVID-19の脅威はあらゆる人に降りかかっていますが、実は「自分が置かれている状況は危ない」との認識には個人差があります。不安の根源にはきりがなく、一人一人が自身で注意することが必要であり、不安を適切にコントロールして「自身や家族の健康と将来を守りたい」と方向づけることが重要です。一方、こうした事態でもそれほど不安を感じない人は、危機対応の点で危ういとも言えます。
メディカルケア虎ノ門/メディカルケア大手町では「通常以上のストレスに晒されている状況にも関わらず、受診を控えてしまうと、心身状態がさらに悪化し、それ自体がさらなるストレスを生む悪循環を招いてしまいます」との注意も喚起しています2。受診を控えることによる悪循環を回避するには、できるだけ受診を中断しないことが望まれます。また、心身の不調を感じている人や、しばらく通院していない患者さんについては、早期受診・早期治療していただくことが重要です。

インタビュー(取材、撮影):ルンドベック・ジャパン Progress in Mind Japan RC
取材日:2020年9月8日
取材場所:ルンドベック・ジャパン株式会社 本社

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お話の内容は、すべての患者様や医療従事者に当てはまるものではなく、またそれらの内容は弊社の公式見解として保証するものではありません。

参考文献

  1. 五十嵐 良雄. 日精診 journal 2009; 183: 104-12.
  2. メディカルケア虎ノ門/メディカルケア大手町 (http://www.medcare-tora.com/info-covid19.html(2020年10月27日閲覧))